執行役員挨拶
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<ポスト・コロナのインバウンド~課題と展望~>
◆インバウンドの現状と課題
平素は本投資法人に格別のご高配を賜り、厚くお礼申し上げます。
2023年の訪日外国人旅行者数は約2,506万人でコロナ禍前の2019年の8割まで回復しました。また、2023年の訪日外国人旅行消費額は約5.3兆円で2019年の4.8兆円を超え過去最高を記録しました。アフターコロナのインバウンドは数字的には着実に戻ってきています。
2023年の都道府県別の外国人延べ宿泊者数を見ると、1位は圧倒的に東京、その次に大阪、京都、北海道、福岡と続きます。注目すべきは、コロナ前と比較して都市偏重が明確になっていることです。1位の東京が4,273万人泊(2019年比146%)と突出して多く、2位の大阪が1,848万人泊(同103%)、3位の京都が1,212万人泊(同101%)、4位の北海道が678万人泊(同77%)、5位の福岡が474万人泊(同111%)と続きます。北海道が上位に食い込んでいるのは、ニセコなどのスノーリゾートに外国人の滞在に対応できる宿泊施設が充実していて長期滞在が多いからだと推測されます。一方、最下位の島根は5万人泊(同50%)、46位の福井が6万人泊(同65%)、45位の鳥取が7万人泊(同39%)となっており、1位の東京と比べると物凄い差となっています。(注)
遡れば2003年に小泉内閣の政策の一つとして「観光立国を目指す」という方針が打ち出され、現在につながる様々な取組みがスタートしました。特に人口減少と少子高齢化が進む地方の経済において新しい経済基盤になることを目標にしてインバウンドに積極的に取組もうということでした。しかし、現状インバウンドは、東京、大阪、京都、北海道、福岡などの大都市圏や有名観光地などの上位10都道府県に集中しており、残り37県にはまだその経済効果は発生していません。さらに2019年対比で減少しているということはかなり深刻で、当初の目論見とは違った姿になっています。日本のインバウンドブームはごく一部の大都市圏で起きている出来事であって、その結果オーバーツーリズム問題も生じているということが大きな懸念になっています。
重要な点は、日本全体ではオーバーツーリズムではなくて偏りが問題ということなのです。一部地域への激しい偏りを是正し、日本の地方に足を運んでいただくインバウンドへの取組みが重要になってきます。
◆都市から地方への変化の兆し
例年1月に米誌ニューヨークタイムズで「今年行くべき52か所」が紹介され、各メディアにて大々的に報道されますが、今年は「山口市」が「2024年行くべき52か所」の3番目に選ばれました。ニューヨークタイムズは「『西の京都』と呼ばれるが、もっと面白い」と絶賛し、瑠璃光寺五重塔や湯田温泉、水ノ上窯、祇園祭り、原口珈琲、カウンターで頼むおでん屋さんなどの観光名所が紹介されました。ちなみに、1位は皆既日食の「北アメリカ」で、2位はオリンピックがある「パリ」ですので、大きな話題となりました。
昨年は、「盛岡市」が2番目に選ばれ、「人混みなく歩いて回れる宝石的スポット」と絶賛されました。大正時代に建てられた和洋折衷の建築美の建造物、盛岡城跡公園、NAGASAWACOFFEE、BOOKNERD、開運橋のジョニーなどが紹介されました。1位はチャールズ国王の戴冠式がある「ロンドン」でした。それに次ぐ2番目というインパクトと、今まであまり取り上げられることがなかった地域であるということもあり、注目されました。
重要なことは、ニューヨークタイムズという世界的に著名な新聞社が、今年は「山口市」、昨年は「盛岡市」を選んで高く評価したことにあると思います。海外の目から評価されるということは今後インバウンドが増えていく可能性が高いということを表しています。山口市や盛岡市のほかにもまだ発見されていない個性や魅力に溢れた街は日本国内にたくさんありますので、このことは日本の地方に物凄いポテンシャルがあることを意味しています。
ニューヨークタイムズの記事を読むと、外国人の方々が、観光において地域性(ローカル)を重視し、また、観光によって地域に対して精神的なつながりや居場所を求めている傾向があるように感じます。これらは、世界における様々な地域の個性に注目し尊重しようとする「ネオ・ローカリズム」の潮流のあらわれであると思います。「ネオ・ローカリズム」は観光の目的地が、大都市や有名観光地から地方や自然豊かなエリアに変わっていく流れでもあるといえます。
◆ネオ・ローカリズム時代の宿泊業界のあり方
こうした潮流の中、今後インバウンドの経済効果が本格的に地方に発生するためには、日本の地方はインバウンドが行きたい場所から「泊まる街」に生まれ変わることが重要です。ただ現状はインバウンドの宿泊に対応できる宿が不足しており受け入れ体制が不十分な状況です。
インバウンドのニーズに対応するために、今地方の宿泊業界は「ネオ・ローカリズム」を意識した変革の時期にさしかかっていると思います。これまでの宿泊業界は、旅先で顧客が安心できる環境を提供するためにホテルのスタンダード化を目指してきました。ホテルは顧客がどこに行っても、約束された変わらぬ一定のサービスを提供するという「グローバリズム」を追求してきました。しかし、今日では世界中を旅し感覚が洗練されたツーリストが増えています。また、宿泊施設に対してその国や土地の「ローカリズム」を求めるようになっています。
こうした顧客の変化に適応できるポテンシャルが高い代表的な例が日本旅館だといえます。国内外のホテルチェーンに比べ、地域の魅力が色濃く演出されているからです。ただ、現状、日本旅館の大半は、温泉と夕食を旅のメインイベントとする1泊2食を前提とするところが多いです。インバウンドの旅の目的が食事と温泉以外にもあり、滞在期間も長いことを理解し、対応できる旅館が少ないのです。1コースのみの懐石料理を提供している旅館は連泊が難しいですし、ハラールなどへの対応ができる宿もまだまだ少ないです。
世界の観光市場の風は今、日本旅館に吹いてきているといえます。伝統を保ちながらも時代のニーズに合わせて、地域性をサービスや活動に反映し、ユニークなサービスを提供する宿を増やしていくことが、インバウンドが地方に宿泊するためには必要です。
◆星野リゾートの取組み
実は星野リゾートでは、先んじて「ネオ・ローカリズム」的な地域へのアプローチを実施してきました。コロナ禍により日本の観光は大きなダメージを受けましたが、そんな中、星野リゾートはマイクロツーリズムを提唱し、自宅から短距離の移動で行う旅を提供し、地域と連携した新サービスを体験していただきました。こうした変化は、星野リゾートにとって、地域との連携をより深めることにつながりました。地域に埋もれていた魅力や資源を掘り起こし、それらを商品化し、情報発信して、施設魅力を創出するとともに、地域ブランドが向上し、地域との協働関係がさらに強化されたのです。これらは、地域の個性に注目し尊重しようとする価値観からきた活動でした。まさにこれは、グローバル社会において地域性を再評価しようとする潮流である「ネオ・ローカリズム」の取組みであったと思います。
星野リゾートでは、これまでも潜在的な魅力のある地方に宿泊施設を展開し、地域の特徴的な魅力を楽しんでいただけるよう、伝統工芸や芸能などを満喫できるサービスやアクティビティを用意して温泉と食以外の価値も提供してきました。そして、先ほど述べた外国人延べ宿泊者数の最下位である島根県に温泉旅館を2施設展開していますし、ボトム10のところに入っている高知、山口、福井などにも今年以降施設を開業する予定です。これら施設においても、まだ知られていない個性的な地域魅力を紹介し、きちんと集客し、地域に貢献していきたいと考えています。
本投資法人も、今後もインバウンドのニーズに対応できる宿を増やしていく努力を続けてまいります。そして、「ネオ・ローカリズム」の潮流に乗り、日本のホテル文化を世界にアピールしていきたいとも考えております。このようにして、観光立国を作り上げていくためにチャレンジし続けてまいります。
投資主の皆様におかれましては、今後も引き続き長期的にサポートいただけると幸いでございます。
(注)出所:訪日インバウンドナビ

執行役員
株式会社星野リゾート・
アセットマネジメント
代表取締役社長
秋本 憲二