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テーマ1

長期的視点と
運用成果の両立

テーマ2

投資主価値の
持続的向上に向けて
割引配当モデルに基づく戦略的テコ入れと
今後の成長ロードマップ

取締役投資運用本部長

高橋 悦郎(左)

取締役経営企画本部長 兼 財務経理本部長

蕪木 貴裕(右)

テーマ1 
長期的視点と運用成果の両立

高橋 悦郎

Profile

  • 取締役投資運用本部長

    高橋 悦郎(たかはし えつろう)

    国内の総合ディベロッパーにおいて、複数の複合用途の再開発事業 / 街づくりPJに携わった後、2019年に星野リゾート・アセットマネジメントに入社。入社後、ホテルの取得、運用、売却業務に従事。

はじめに

2024年の訪日外国人旅行者数は約3,687万人、消費額は8兆1,257億円と、ともに過去実績を大幅に上回った(出所:日本政府観光局 訪日外客数(2024年年間推計値))。2025年に入ってからも勢いは留まることを知らず、毎月のように過去最高の更新を続けている。主要都市を中心にホテルの稼働率は高まり、業績は回復基調から成長フェーズへと移行。とりわけ高単価帯のホテルを中心に客室単価(ADR)は上昇し、業界全体が強い追い風を受けている状況だと感じている。

しかしながら、その一方で急速な成長に伴う“成長痛”も各所で顕在化してきている。代表的な事例として「オーバーツーリズムによる地域住民との摩擦」、「ホテル価格の高騰による期待値の過剰化」、「人材不足およびサービス品質の低下」などが挙げられるが、このような課題を放置したままで、現在の好調が持続可能であるとは考えられない。ホテルが長期的に競争力を維持していくためには、成長の裏にある課題と真摯に向き合い、戦略的かつバランスの取れた取組みを実行していく必要がある。

課題解決に向けた打ち手

このような背景の中、星野リゾートが積極的に取り組んできたのが、「従業員および職場環境への投資」である。現在、宿泊業界では慢性的な人手不足が続き、従業員一人ひとりの業務負担が増加している。優秀な人材の確保と定着がますます困難になっている状況であるが、星野リゾートは新卒初任給を引き上げるなど待遇面の改善に取り組むとともに、実験的に週休3日制を導入する施設を設けるなど、働き方の面からも課題解決に向けてアプローチしている。

週休3日制とは一見すると「施設運営の必要人員数が増加し総人件費が上昇する」という懸念点に目がいき、従業員ファーストの施策である、と感じられるかもしれないが、企業側にも明確なメリットがある。特に地方においては、旅館業が自治体の職員や大手メーカーの地方工場などと人材を巡って競合している現実があり、働きやすさや柔軟な勤務体系を提供することが、採用活動での大きな差別化要素になる。加えて、従業員にとってワークライフバランスが整えば、離職率の低下や定着率の向上につながり、中長期的には採用・教育コストが削減される可能性がある。また、余暇時間を自己研鑽や地域活動に充てることにより、従業員が多様な視点や経験を業務に還元することができ、サービスの質の向上にもつながるという副次的効果も期待できる。

所有と運営の分離

近年のホテル業界では、「所有と運営の分離」が進んでおり、運営者はホテルの企画・運営に専念し、不動産としてのホテルの所有は不動産投資法人や不動産ファンドなど、資産運用を専門とするプレイヤーが担うという構図が一般化している。しかし、この構造の中では、所有者と運営者の目線が必ずしも一致しないケースがある。所有期間を限定し、物件価値の高いうちに売却して利益を確定させたいと考える短期志向の所有者にとっては、そのホテルの持続可能性や中長期の収益性よりも、目先の利益最大化が優先されがちとなるからである。

短期の不動産売買による収益化が否定されるものだとは思っていないが、ただ、短期売買で収益を継続的に出し続けることは非常に難易度が高いことで、「株の短期売買で勝ち続ける」ようなものだとも感じている。だからこそ、本投資法人においては長期的目線に立った不動産運用を心がけており、物件売買もCAPEXによる魅力投資も、長期的な視点での競争力の維持向上に資するものなのか、という視点で運用を実施している。

足元のアクションについて

「従業員および職場環境への投資」の実行は、将来にわたって当該施設の競争力を維持・向上させるために極めて重要な打ち手である。しかしながら、それは一方で足元の収益性の低下を伴うものであり、受領賃料も実行前と比較して減少する結果となった。これに対し、施設に必要なコストをかけながらも、投資法人の収益を向上させる方法を模索し、スポンサーと協議を重ねて実現に至ったのが、2025年3月18日、4月18日および6月16日に開示した施策である。

この施策について最もお伝えしたいのは、「長期的に必要な打ち手を犠牲にすることなく」、投資法人の収益改善を図ったという点である。例えば、人件費の上昇を受けて無理に他のコストを削減する(例えば、アメニティや備品などの質を落とす)ことは、短期的には収益改善につながるが、顧客満足度の低下を招き、結果として施設の競争力を損なうリスクがある。そうした方法を取るのではなく、今回私たちは賃貸借契約の見直しや資産入替え等を通じて、利回りの改善や賃料水準の向上を実現した。

最後に

本投資法人は星野リゾートとの共存共栄の関係にあり、長期的に持続可能な体制を構築してきた。今回は、足元のマーケットリスクに備えるための人材への投資、という観点でお話をさせていただいたが、今後も長期的視点と運用成果の両立を図る運用を心がけてまいりたい。

テーマ2 
投資主価値の持続的向上に向けて割引配当モデルに基づく戦略的テコ入れと今後の成長ロードマップ

蕪木 貴裕

Profile

  • 取締役経営企画本部長 兼 財務経理本部長

    蕪木 貴裕(かぶき たかひろ)

    事業会社の経営企画を経て2013年に入社し、財務経理や物件取得に従事。2016年に一度退職し、再び事業会社の経営企画を経て2019年に再入社。現在は開示・IR業務やコーポレート管理業務、財務経理業務に従事。

理論と実行に基づく投資口価格向上策

2024年12月の前回決算発表以降、J-REIT市場は長期金利の上昇を受けて全体的に低調に推移した。加えて、星野リゾートが中長期的な競争力の強化を目的に、2025年は人材投資を優先したこともあり、本投資法人の投資口価格は一時的に軟調となった。

こうした状況を打開すべく、2025年に入ってからは短期的な投資口価格対策として、3月18日、4月18日、6月16日の3回にわたり、集中的なテコ入れを実施した。

投資口価格の理論的な説明には「割引配当モデル」があるが、今回の取組みはこのモデルをもとに、投資口価格を構成する要素を因数分解し、課題の明確化と打ち手の設計を行った。その具体策は、①譲渡益の創出、②足元の内部成長(賃料増額)、③物件入替えによるポートフォリオ利回りの改善、④分配金の安定性および透明性の向上、などである。

まず、分配金の底上げを図るため、「界 阿蘇」を売却し譲渡益を計上。その一方で、単なる売却ではポートフォリオ全体の収益力が下がってしまうため、「コンフォートイン新潟亀田」を高利回りで取得することでその影響を最小化した。

次に、内部成長の取組みとして、「星のや沖縄」「グランドハイアット福岡」「OMO7高知」「the b」5物件について、短期・中長期の賃料増額を実現した。また、利回りが相対的に低かった「OMO7旭川」を売却し、高利回りの「ホテルWBFグランデ旭川」を取得することで、ポートフォリオの全体利回りを押し上げた。

さらに、分配金の透明性向上に向けた賃料設計変更も実施した。これまで星野リゾートが賃借する変動賃料物件では、売上連動型・利益連動型の区分により、変動賃料の算出期間が異なっていた。これを、該当期直前の1年間に統一した。

これにより、投資主にとってわかりやすくなるだけでなく、例えば大阪万博などによる直近の好調な業績が、より早期に分配金へ反映される仕組みとなった。

これら一連の施策により、当初5,000円としていた2025年10月期(第25期)の1口当たり分配金予想は6,000円へと大幅に増配(+20.0%)、続く2026年4月期(第26期)予想は6,200円となり、前期比で+3.3%を見込んでいる。これに呼応する形で、投資口価格も大きく上昇した(以下スライド参照)。

分配金成長の道筋と収益ドライバー

とはいえ、現在の投資口価格や分配金の水準で満足しているわけではない。投資主価値のさらなる向上に向けて、まずは分配金をコロナ禍前の水準に回復させることが当面の重要課題である。この目標に向け、先の決算発表では分配金の将来見通しとその要因を公表した。2026年10月期には、コロナ禍前の1口当たり分配金6,651円を超えていく見込みだ(以下スライド参照)。

さらにその先には、分配金7,000円以上も目指していきたい。星野リゾートは、インバウンドでも自社ホームページからの予約比率が60%以上と、高い獲得力を誇る。その獲得力を活かして、今後インバウンド需要のさらなる取り込みを行っていきたい。また、2年ほど前から星野リゾート代表の星野が先頭に立って行っている「業務最適化プロジェクト」によって、必要人員を抜本的に見直し、収益性の高いオペレーションを目指していく。

一方、星野リゾート以外の物件においても、本投資法人が行った改装効果で、「ANAクラウンプラザホテル広島」や「グランドハイアット福岡」の宿泊部門が好調だ。今後も効果的な改装を行っていくことでさらなる成長を目指していきたい。

星野リゾートとの連携が生む投資主価値

本投資法人は、上場以来、星野リゾートの運営力に支えられ、安定した成長を遂げてきた。しかしながら、どれほど実績のある企業でも、常に順調というわけではない。2025年における星野リゾートの人材投資により、短期的には利益が圧迫され、その影響が本投資法人にも及んだことは否めない。

とはいえ、これは決して本投資法人やその投資主を軽視した結果ではない。むしろ、星野リゾートが将来的な競争力の強化と、観光産業の持続的な発展を見据えて、今こそ人材に投資すべきだという判断を下したものだ。

星野リゾートと本投資法人は、元々ひとつだったホテル事業体を、「所有」と「運営」という二つの機能に分離したことで成立した関係である。その本質は、いずれか一方が独り勝ちする関係ではなく、双方が共に成長するか否かにかかっている「共存共栄」の関係だ。

そのため、先述のような取組みを進めるにあたっても、星野リゾートからの積極的な協力が得られ、結果として投資口価格の回復につなげることができた。

今後も、ホテル運営における星野リゾートの強みと、不動産運用における私たちアセットマネジメント会社の知見を結集し、本投資法人の持続的な価値向上に努めていく。