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星野リゾートでは「勝手にSDGs」という取り組みを行っている。これは、1990年代に軽井沢で始めた環境対策からスタートした。2000年以降の成長段階において、観光客が少ない場所に、行きたくなる魅力をつくる必要があったので、地域の食材や土地の文化をテーマにした仕組みづくりに努力し、それが現在の競争力につながっている。それらの仕組みの多くがSDGsに当てはまるのであるが、対外的に情報発信すべき事項とは捉えていなかったので、今まであまり広報して来なかった。しかし、それでは勿体ないという社内の声から「勝手にSDGs」というタイトルで情報発信し始めている。

星野リゾートが1990年代から一貫して重視しているポイントは、マイケル・ポーターが近年力説している通り、活動をCSR(Corporate Social Responsibility)ではなく、CSV(Creating Shared Value)として位置付けることである。つまり企業の利益追求のパワーを通じて、社会問題の解決につなげる仕組みを構築することであり、SDGsにつながる活動においても星野リゾートは収益との両立を決して忘れてはいない。

例えば、星野リゾートでは、収益を悪化させる環境対策は行わない。星のや軽井沢では、使用するエネルギーの70%を自らの土地で自給している。水力発電で起こした電気で地熱ヒートポンプを稼働させ暖房することで灯油の購入をゼロにしている。水力発電による電気は夜に余る傾向があるが、暖房負荷は夜中の方が高いので2つの相性がマッチするところがポイントだ。この地熱暖房のシステムは、灯油購入よりも安価で稼働させることができており収益にも貢献している。

だから、業績の好不調にかかわらず維持できる仕組みであり、CSRではなく、CSVになっているのである。日本で本格的なエコツーリズムを軽井沢で初めて事業化したピッキオは、野鳥の森を舞台に年間通して事業を展開している。今ではツキノワグマとの共存プロジェクトでも知られるようになり、軽井沢星野エリアの集客力に大きく貢献しているが、これもピッキオというユニットが黒字化していることでCSRではなく、CSVとして位置付けることができている。

界加賀では九谷焼の若手作家の器を積極的に採用している。これから作家としてキャリアを築いていく若手の陶芸家の皆さんは温泉旅館の活動に協力してもらいやすい。例えば、界加賀では「活蟹のしめ縄蒸し」という名物料理を作り上げたが、若手陶芸家にこの料理を見ていただき、その大きさ、色、形にあった器を製作いただいている。陶芸を学ぶ人たちがいる場所ならではの新しい料理プレゼンテーションのあり方だ。

界箱根では、開業時から地元伝統工芸である寄木細工と深く連携してきた。インテリアに配置し、質の高い工芸品を顧客に紹介することで伝統工芸の需要を増やしてきた。界日光の日光下駄では、訪日外国人客から製作の発注が増えたり、新しく伝統工芸を学ぶ職人が増えるなどの成果が見え始めている。

星野リゾートトマム(北海道占冠村)では、ゴルフ場を牧場に戻す「Farm Hoshino」プロジェクトが進行している。環境を変え、エネルギーや除草剤を使って維持するゴルフ場をやめ、この地域に合った北海道らしい景観に戻し、顧客が楽しむ空間やサービスを提供し、牛乳を製品化してリゾート内で消費するという自産自消が実現している。バブル期に建てられたハードを持つトマムであるが、今後の改善においても、元々あった景観や環境を尊重する手法で、さらなる集客と収益に結びつくコンセプトを発想していきたい。

ちなみに、『都市データパック2019年版』を分析した東洋経済オンラインの記事によると、人口増加した自治体ランキング国内第一位は、直近3年間で19%増加した星野リゾートトマムが位置する占冠村だった。観光産業の拡大が安定した雇用を増やし、地方における新しい経済基盤になり得ることを示した良い事例とすることができた。

星野リゾートが近年グループ全体で推進しているプロジェクトが脱プラスチック化だ。客室のシャンプーやソープなどのバスアメニティを、運営する全施設でボトルタイプからポンプ式に変更済みであり、約49トンのプラスチック廃棄物を削減した。客室に準備する歯ブラシを、プラスチック素材としてリサイクルする仕組みを2019年に構築し、100万本以上の歯ブラシの廃棄物を削減している。今では当たり前になった客室に準備する水のペットボトルについても、まずはリゾナーレで廃止する方法を構築してスタートさせた。パブリックエリアにウォーターサーバーを準備し、お部屋に準備するタンブラーでお好きなだけ水を持って行っていただける方法を全リゾナーレ施設で導入した。これにより500mlペットボトル28万本を削減する予定だ。

収益の一部を使って社会に貢献するCSRは決して持続可能ではなく、その手法では社会問題は解決されてきていない。星野リゾートは、飽くなき収益追求のパワーを原動力とするCSVの発想で、これからも私たちらしく継続的に存在価値を上げて行きたいと考えている。

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