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想いをかたどり、価値へ変える、共創者たち。
Vol.3

鈴木 裕治

Yuuji Suzuki

鈴木 裕治

Yuuji Suzuki

オンサイト計画設計事務所 取締役パートナー
登録ランドスケープアーキテクト(RLA)、
一級建築士、自然再生士、一級造園施工管理技士
東京電機大学 非常勤講師

訪れた人にとって記憶に残る、
原風景のような空間をつくりたい

4人のランドスケープアーキテクトにより設立された「オンサイト計画設計事務所」。一般的にはあまり馴染みのない「ランドスケープデザイン」という概念だが、そこには建築よりも大きなスケールで対象と向かい合い、人と自然をつなぐためのデザインがありました。「オンサイト計画設計事務所」を共同設立した1人でもある鈴木裕治氏に、大切にしている視点を伺いました。

土木もサスティナビリティも、
すべてがランドスケープデザインの領域。

「1998年に、前職の同僚だった長谷川浩己、戸田知佐、三谷徹と私の4人で始めたのが、オンサイト計画設計事務所です。ランドスケープアーキテクチャーという概念は、アメリカが発祥の地で、放っておくと砂漠になってしまうようなところに都市計画をし、どのように自然と都市を共存させて人々が永続的に過ごしやすい環境をつくっていくかという文化が、アメリカでは発展するようになりました。

また、ランドスケープアーキテクトの概念を提唱したのは、ニューヨークのセントラルパークを設計したフレデリック・ロー・オルムステッドという人です。1980年代当時でランドスケープアーキテクチャーを学ぶ場はまだアメリカにしかなかったため、パートナーの長谷川と三谷はアメリカで経験を積んでいます。ランドスケープアーキテクチャーの概念は広義に渡っていて、造園だけでなく生態系やエコロジーなど自然の概念と同時に、都市計画する上で土木などシビルエンジニアリングのこと、持続可能性としての概念としてサスティナビリティも考えなければなりません。そのためアメリカでは、建築よりも先にランドスケープを検討し、大きな敷地の中で建築をどう位置付けて計画していくかを検討するプロジェクトが数多くあります。ランドスケープアーキテクトは建築家とコラボレーションしながらディスカッションして空間をイメージしながら計画を進める、という土壌があるのです。私たちが事務所を設立した当時の日本では、このアメリカの考えを取り入れて活動している事務所は数少なく、『外構』として建築とは切り離されて考えられていたのです。ですから、建築家と一緒になって、内外絡み合うようにデザインをしていきたいという想いが、弊社設立の根底にあります。

ランドスケープの考え方は非常に曖昧です。100人のランドスケープデザイナーがいれば十人十色で違うことを言うでしょう。それぞれデザインも変わってくると思います。また、プロジェクトごとに場所も異なれば、プログラムも違うはずです。我々はその都度、最適解があるだろうと考え、プロジェクトごとに新しい挑戦をしています。飽きっぽいといえるかもしれませんが、同じことを二度はやりたくないのです。〈星のや京都〉でランドスケープを考えたときも、面白い発見がありました。伝統の技術が根付いた場所では、私たちがいくら何かを提唱しても軽くなりがちで、本物には到底かないません。であれば、伝統の技術を持つ方々と一緒にコラボレーションすることで、私たちの表現を融合しながら新しいものが生み出すことができるのでは?と考えました。新しく何かを“つくる”だけが、アプローチではなかったのです。

計画する土地の風土や特徴について、調査や分析を毎回していますが、それがデザインに直結するわけではありません。重要なのは、現地に訪れて、デザインに影響していく部分を嗅ぎ分け、ピンと来たことに対してアイデアを出していくこと。私たちは、この勘とプロセスをとても大切にしています。ですので、海外のプロジェクトはひとしお大変です。〈星のやバリ〉の場合も、まったく土地勘がなく、バリ島の文化にも精通していなかったので、分厚い本を買って読み漁り、現地を回りながら、現地の人々がどのような生活を送り、どんな習慣があり、どのような文化が育まれているかを見て感じたうえで、敷地を訪れて、どのようなことをしていくかをチーム全員で議論しながら提案していきました。ランドスケープをデザインすることとは、その場所やそこに根付くものへの理解なくして成立しません」

公共施設も数多く手がける。静岡県の〈富士山世界遺産センター〉もその1つ。©吉田誠

自然と人工物を互いに引き立て、
人の居場所をつくり出す。

「ランドスケープは植物など自然の素材を扱いながら設計するという側面がありますが、建築がハードな人工物のデザインに対し、ランドスケープが植物などソフトなデザインという対比構造があるように見られがちです。ランドスケープにも、工作物や構造物がたくさんあります。それらハードとソフトを組み合わせてデザインするので、どちらがどちらを立てるということではなく、互いに引き立つようにデザインすることを考えています。ランドスケープデザインで私たちが重視しているのは、襞(ひだ)や穴など、人が居心地の良いスケール感をもった場所を、どれだけつくることができるかということです。人がそこでどのような賑わいを生むか、「こういうふうに設えたらこういうことをしてくれるだろう」と想像しながら設計しています。見る庭自体をつくるのではなくて、人の居場所をつくる感覚がすごくありますね。

パブリックとプライベートでいえば、建築はわりとプライベート性が高く、それぞれの部屋や空間に対する機能が名前によっても決まっています。一方でランドスケープはパブリック性が高く、空間に名前がなく、そこで何をするかは個人の思うがままで、私たちが縛るものではありません。使う人がその空間に名前をつけてくれればいいのです。何かをしたくなる環境であったり、なんとなく寄ってきて、居着いてくれるようにどうつくるかというのは、最も興味のあるところです。椅子であれば、セッティングするときにはどれほどの高さであれば座ってくれるのか、といったことを、議論を繰り返し、模型などでスタディして、一所懸命考え抜きます。私たちが設計するものはとても大きなスケールのように見えるかもしれませんが、実は何センチという細かなスケール感でも図面を描いて、ディテールまで突き詰めてデザインしているのです。それでも完成後に訪れると、想定とは違う使われ方をしていることがあります。それがまた面白いのですね。変わった使い方に出くわすと、真っ先に写真を撮っています(笑)。

すでにある自然環境に対して私たちがつくるものは小さなことなのですが、現場の状況をできるだけ壊さないように編集するのがもっともいい。自然環境を利用しながら仕事をさせてもらう人間なので、自然に対するリスペクトは欠かすことができません。建物をつくるために木々を切る計画が出てくるとすれば、建物のほうをずらして木々を残すような主張をすることもあります。これも星野リゾートとご一緒した〈ハルニレテラス〉のお話ですが、その地には20〜30メートルの木々がありました。このサイズの樹木は新たに植えようとしても植えられませんから、植わっている木々をうまくアレンジしながら建物を配置して、どう居場所をつくり、どう座らせて、どのように木を見たらよいのか、とその場所ありきでデザインしました。そこに植わっていた木の大半が「ハルニレ」と言うマイナーな樹木だったのですが、リスペクトしたその木を星野さんは魅力として重視し、その場所は「ハルニレテラス」と命名されました。

時間軸の考え方もランドスケープでは大切です。新築のプロジェクトで大きな木を最初から植えるにはコストが高くつきますし、大きな木は人間でいえば歳をとっている状態なので、植えた後にそれほど成長しません。苗木など小さな木を植える場合、最初は生い茂った状態ではありませんが、10年ほど経てば森のような景色にすることもでき、そうした設定はプロジェクトごとに想定しています。プロジェクトによっては竣工時に木々が立派に成長していることが求められる場合もありますが、見た目の許容範囲を想定し、設計条件を守りながら小さな樹木を植え、時間を経るごとによってさらに良く見えてくる、という具合に設計します。風景の中で樹木は常に成長するものなので、どんなシーンでも完成形であるべきです。そして、ランドスケープは古くなったら終わりということはなく、継続していくもの。放っておけばある意味で自然の状態とはいえますが、荒れておらず、来訪者にとって不快ではない状態をどう保つか管理の計画には気を使います。サスティナビリティの概念を取り入れて、うまくエイジングしていって景色に馴染みつつ、使いやすくある状態にするにはどうしたらいいかと考えています」

100 本を超えるハルニレ(春楡)が立ち並ぶ長野県軽井沢の〈ハルニレテラス〉。

訪れた人にとって、
記憶に残る
原風景のような空間をつくりたい。

「宿泊施設のランドスケープで意識しているのは、“引き”をつくることです。場所によってデザインも手法も大きく異なってきますが、例〈星のやバリ〉では、周囲には現地の人が耕作している棚田があり、施設の敷地の中に入ってからも塀の周りをグルッと回して、敷地の端に来てようやく施設にポンと入るように計画しました。どこからが施設なのか、ということはいつも議論するところです。サインがある場所か、塀を入るときか、レセプションカウンターか。周辺環境や施設によって異なりますが、利用者が『この施設に来た』ということをドラマティックに強く印象付けられるまでは引っ張る、引きをつくるということは常に考えています。

また、シークエンスというのですが、人がそこにたどり着くためにどのようなシーンを展開していけば来訪者に印象付けていけるのかということは、毎回のように悩んでいます。そうした意味で、アプローチはすごく重要で、すぐに玄関に入るのはつまらない。玄関に入るまでにどれだけ期待感を持たせて盛り上げられるかは重要です。とはいえ、テーマパークのようにはしたくありません。意識の根底は、あくまで“本物感”をどのようにしたら出せるかということです。
ランドスケープで扱う敷地は、一般的な建築で扱う計画より大きいことが多いのですが、その敷地以上に広く感じさせるようにするにはどうしたらいいか、というのも常々考えていることです。アプローチに引きを取ることもそうですし、四角い広場をつくるとき、その広場をあえてパースが効くように台形にして広く感じさせられるようにするなど、目の錯覚も利用してさまざまな手法を検討します。敷地自体のポテンシャルを100%引き出すだけでなく、土地の魅力を120%にするにはどうしたらいいかを考えているとも言えますね。そして、パブリックな場で多様な過ごし方ができるところをつくり、結果として心地よい場所になり、それが建物の内と外で一体となるような距離感を持ちながら展開していくように設計を進めます。

パブリックとプライベートな領域をつくりながら区分を考えるときには、その間の中間領域と呼ばれる状況も大きなテーマです。人が何かをするという明確な目的が設定された場でなくても、そこでは何かが常に生まれたり、コミュニケーションが生まれたり、創造的な活動がされたり、という場所があります。さまざまな段階があると思いますが、そうしたバリエーションに対してうまく設定し使えるようにデザインすることで、訪れる人にとって意味があり、記憶に残る原風景のような空間にできればと考えています。リゾート空間は、普段過ごしている日常的な体験とは別の記憶が刻まれる場所だと思います。『あそこであの経験をしたから、今の自分がある』というような場所をつくっていけたらいいですね。人の記憶に刻んでいけるような場所をデザインできるとしたら、これほど幸せなことはありません」

千葉県柏市の〈柏の葉 キャンパスシティLD〉も手がける。©吉田誠

Profile

1968年鎌倉生まれ。1998年に長谷川浩己氏、戸田知佐氏、三谷徹氏、同氏の4名によって「オンサイト計画設計事務所」を設立。以来、大学キャンパス、オフィス、リゾートホテル、博物館・美術館など、数々のランドスケープデザインを行う。

代表作
柏の葉キャンパスシティ/東京電機大学千住キャンパス/奥多摩森林セラピーロード香りの道・登計トレイル/富士山世界遺産センター/星のや全施設
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