English Search

想いをかたどり、価値へ変える、共創者たち。
Vol.4

武石 正宣

Masanobu Takeishi

武石 正宣

Masanobu Takeishi

ICE都市環境照明研究所 所長
ライティングディレクター

デザインの良さを求めて
何かを犠牲にしてはならない

COREDO室町などの商業施設をはじめ、星のやなどの宿泊施設やすみだ水族館などのミュージアムなど、さまざまなシーンの光を手がけてきた「ICE都市環境照明研究所」の代表取締役・武石正宣氏。人に寄り添いながら、ホスピタリティの高い光環境のつくりあげてきた武石氏に、そのデザイン哲学を伺いました。

照明は、人の快適さや
安らぎを生み出すもの。

「照明デザインの対象は、ランドスケープやまちづくり、また建築やインテリア空間に至るまで、幅広いフィールドにまたがっています。私は商業空間に対する照明デザインからキャリアをスタートさせたこともあり、人に近い目線で光のあり方を考えています。100分の1や1000分の1といったスケール感から捉える建築物や都市計画に対して、インテリアでは人間にとって1対1のスケール感覚での発想です。特定の空間にいる人に対して、光でどう見えるか、どう見せたいかを大切に考える、つまり利用者の目線で考えるということです。そのため、光をどのようにデザインするかは、施設や場所ごとに異なります。そこでの利用者の行動目的や施設の役割はもちろん、テクノロジーだったりホスピタリティだったり、さまざまな要素からアプローチして考えます。そのうえで、各要素におけるパラメータをどう調整するか、施設や場所ごとに考えるのです。例えば、飲食店において照明の明るい店は、ファストフードのようなお店が多いですよね。一方でレストランのようなお店は、長い時間を過ごすことが想定されていて、暗いものです。周りがすべて見えていては、落ち着いて会話するにはそぐわない。逆に言えば、ファストフード店では長居されても困りますし、ゆっくりと食事を摂るためにファストフードを選ぶ人も少ないと思います。この場合は居心地や滞在時間、そこでの利用者のコミュニケーションなどが、照明デザインを検討するうえで要素になりますが、あらゆる要素のパラメータを上げたり下げたりし、試行錯誤しながら理想の照明デザインを考えていきます。

現代的な照明のデザインは、まだ歴史が浅い分野です。ただ、光の質や量に対する人々の考え方は、歴史を通じて変化してきました。産業革命以前は火を用いてあかりを得るだけの暗い環境でしたが、暗さや闇に対して強い耐性を持ち、特有の文化を醸成していたのが日本人です。谷崎潤一郎が『陰翳礼讃』を記し、日本固有の光に対する捉え方を指摘したのは、白熱灯が登場した時期のこと。『昼のような明るさ』とありますが、それでも現代の照度から比べると2桁ほど暗い環境です。高度成長期に入ると、日本では生産性が美徳とされるようになり、家の中もオフィスのように明るく、白い光であふれるようになりました。現在では落ち着ける光として、再び電球色が好まれるようになっています。このようにさまざまな文化背景や時代の中で、求める光の質や量は変化してきましたが、照明は本来、人の快適さや安らぎ、なごみを生み出すものであるという原点は変わっていないのです」

〈星のや京都〉では、もともとあった建物の光の状態に合わせて、細かな光で人のスケール感に合う光を配置した。

デザインが良いことと引き換えに、
何かを犠牲にしてはならない。

「あらゆる空間において、照明デザインはその利用目的や行動目的に適ったものでなければなりません。ではどのようにデザインを考えるのか。わかりやすく事例を交えてお話しさせていただきます。星野リゾートとの最初の仕事であった〈星のや軽井沢〉では、日本の旅館が出発点ということもあり、滞在型でゆっくりとした時間を過ごすことが想定されましたから、日本的な暗さにすることが大切だと考えました。暗さの中に、普段の日常にはない落ち着きや文化を、現代人は感じると考えたからです。つまり照度を落とすことが、宿泊施設が提供するホスピタリティの目盛りを上げることにつながる、と。もちろん、通路で段差のある部分には安全の観点から照明器具を入れて明るくするなど、細かく丁寧に計画しています。最初に〈星のや軽井沢〉でイメージしていたのは、バリ島のリゾートで、とても暗い環境です。しかし、そのままの明るさを再現すると、右肩上がりの時代を経た日本人にとっては、暗すぎると感じるだろうと懸念もあり、少し明るめに光の量を上げています。本来、人は照度が落ちると心地よさを感じるものですが、ではゆったりと過ごしてほしいと願う場所だから、単純に照度を落とせば良いのかというと、そうではない。暗さが、そのまま居心地の良さに直結するわけではないのです。その光に接する利用者たちが、どんなバックグラウンドを持っているのか、どういう暮らしをしてきたのか、そこまで思いを巡らせて考えます。

そして「表裏一体」とよくいいますが、デザインが良いことと引き換えに、居心地の良さやメンテナンスのしやすさ、維持費などの実用面を度外視して、犠牲にすることがあってはならないと考えています。〈星のや軽井沢〉のお食事処に当たる「集いの館」は、天井高が非常に高く、床が段々となった設計がなされていました。全体のストーリーに沿いながらこの場に適した照明計画を考えるのですが、開放的な空間のなかで、食事をする人にとってプライベート感を高めるのは難しいことです。そこで照明器具を頭の上に持ってくるようにし、光の塊が感じられるようにすることを考えました。天井にスポットライトを付けてテーブルまで光を届けるには、相応の強い光が必要です。それが、照明器具を頭上に設けることで、小さな光で済む。電気代は抑えられますし、ランプの交換も容易になります。このように、使いやすさは常に意識しています。ただし、日中はそれらの照明器具の様子がはっきりと見えますから、天井からの吊り下げ方を入念に検討しました。それぞれのテーブルに照明器具を設けるときに、電気コードやワイヤーがうるさく見えてしまうのですね。そのため、1本の電気コードを2本に分岐してV字型にし、天井から伸ばしてくる方式を考案しました。コードの長さが1本1本異なり、工事現場での調整も効かないという手間や難しさはありましたが、きれいに納まったと思います」

〈星のや軽井沢〉の「集いの館」。頭上の照明から漏れる光の塊が印象的。

デザインとは意匠だけでなく、
場所性や時代性などすべてのバランス。

「また継続的に照明を手掛けている施設では、その施設が持つストーリーのつながりや共通のリズムは意識して進めています。〈星のや〉や東京・白金台の〈八芳園〉のバンケット改修計画などが、まさにそうですね。さらに地域の特性に応じて施設を整えているホテルや旅館などでは、照明デザインでも地域性を意識しています。

〈星のや京都〉では大きな明かりで満遍なく照らすのではなく、もともとあった建物の光の状態に合わせて、細かな光で人のスケール感に合う光を置いていきました。入り口に設けたサインの入った照明器具では、人が訪れるときに面する表側はフタで覆って黒く塗り、側面には網代を張って光が繊細に広がるようにしています。この器具は京都の会社に依頼していますし、以前にこの建物で使われていた照明器具を再び客室などで利用しています。

苦労したもので印象的なのは、当初のテーマとして『ノーライト』を掲げた〈星のや竹富島〉です。珊瑚の白砂が広がる浜辺では、月が出ていなくても薄っすらと明るいのです。暗いところにハブが出やすいという事情などで、さすがに明かりをなくすことは実現しませんでしたが(笑)、コテージの周りに巡らされたグックという石垣では、かすかな光でも遠くから照らすとバウンドして戻ってくるほど周囲は暗い。竹富島、そして八重山諸島の星空や月明かりの魅力を存分に感じてもらえるように、強い光を避け、上方への光を遮り、小さなあかりを最少限に配しています。客室ではスタンド照明を特注し、光が壁や床に反射して柔らかく広がるようにしました。この器具では、竹富島発祥のミンサー織りの文様をかたどることもしています。長軸が50メートルほどの楕円形をしたアイコニックなプールでは、必要最小限でギリギリの光を目指しました。光の総量を抑えると、プールに入っていても星などが見えてくるのです。照明器具は6灯のみとし、わずかな光を水中から照射することで、美しい空気感を得られるようにしました。

ひとつの宿泊施設でも、場所や施設の特性によって照明のあり方も変わるということがわかりやすいように、〈星のや〉を例にお話ししましたが、どの宿泊施設でもバランスが大事だと考えています。デザインというのは意匠のことだけを指すのではなく、場所性や時代性、使い勝手などすべてのバランスを保つことといえるでしょう。人間は、特に意識していなくても、自分にとって心地よい場所を瞬間的に探し当てているものです。他人と共に過ごすときも、相手に合わせて振る舞いは変わります。施設ごとに私は宿泊者の視線に立って『きっとこうなのではないか』と想像を巡らせることで、ちょうどいいバランスを探っていきたいと思います」

月明かりの魅力を感じやすくするため、小さなあかりを最少限に配した〈星のや竹富島〉。

Profile

1959年神奈川県生まれ。多摩美術大学建築科卒業後。(株)海藤オフィス チーフデザイナーを経て、1996年ICE 都市環境照明研究所を設立。 国内外の商空間から公共施設、イベントまで、多岐に渡る照明デザイン・ディレクションを手掛ける。国際照明コンテスト受賞多数。

代表作
Ao 青山/東急プラザ銀座(館内・共有部)/すみだ水族館/星のや軽井沢
Back to list