1. サステナビリティマネジメント
リスク・機会の認識
気候変動に関する認識と方向性
気候変動の進行は、自然環境や社会構造、そして人類をはじめとする生物の営みに深刻かつ不可逆的な変化をもたらすものであり、本投資法人の資産運用および企業価値にも重大な影響を及ぼす重要課題であると認識しています。
そのため、気候変動の影響を低減し、長期的に持続可能な投資・運用活動を継続するには、経営戦略・投資判断・資本配分を一体的に見直す「戦略的脱炭素」アプローチが不可欠であると考えています。
本投資法人は、2050年ネットゼロ達成を見据え、2030年までに温室効果ガス(GHG)排出量を、2020年比で40%以上削減することを目標としています。この目標は低炭素経済への移行を前提とし、ポートフォリオ戦略・資本的支出・計画・改修方針の再構成を通じて実現を目指すものです。具体的には、座礁資産リスクとブラウンディスカウントの回避、エネルギー効率性の向上、必要に応じた再生可能エネルギーの導入、ならびにレジリエンスの強化を中核とする運用方針を構築していきます。
産業革命以降、化石燃料の大量消費により蓄積されたCO₂が地球規模の気候変動を引き起こしました。本投資法人は、この壮大な環境変化に対し、テクノロジーの活用に加え、科学的根拠に基づくGHG削減、資産価値の長期的な保全、地域経済の活性化、生態系との共生など、多面的なアプローチを進めています。
ネットゼロへ向けたロードマップ
本投資法人の気候変動ロードマップは、
脱炭素に向けた資本配分、リスク管理、排出量削減の方向性について、
中長期の時間軸で整理し、示したものです。
本ロードマップはCDPのフレームワークに準拠して設計しています。
なお、CDPスコアそのものは公開していませんが、
開示内容についてはCDPの評価体系におけるM3レベルとの整合性を確保しています。
TCFD提言への賛同表明
本資産運用会社は、TCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)提言に賛同しており、同提言に基づく開示を行っています。
また、気候変動に関するリスクおよび機会を適切に把握し、投資判断および資本配分に反映するため、開示内容および管理手法の高度化に継続的に取組んでいます。
気候変動対応に関するガバナンス体制
本資産運用会社は、気候変動対応を重要な経営課題と位置づけ、本資産運用会社の取締役会において方針の策定および進捗の監督を行っています。
執行にあたっては、サステナビリティ課題への対応を担う「ESG委員会」を設置し、エネルギー効率化や脱炭素化に関する検討および提案を行っています。
また、気候関連リスクおよび機会への対応方針として「気候変動・レジリエンスポリシー」を策定し、代表取締役社長を最高責任者、チーフ・サステナビリティ・オフィサー(CSO)を執行責任者とする体制のもと、意思決定に反映しています。
シナリオ分析の実施
本資産運用会社では、気候変動が本投資法人に与えるリスクおよび機会を把握し、事業への影響を検討するため、ホテル運営および不動産の運用・管理の両面から分析を行い、以下の2つの世界観に基づくシナリオ分析を実施しています。
シナリオ分析に基づく財務的影響の検証
本分析で得られた知見を踏まえ、災害リスクの高い地域や既存物件について、耐災性向上策の優先順位を整理し、段階的な強化計画に反映しています。
シナリオ分析表
この表は左右にスクロールできます。
| 4℃財務的 影響 |
1.5℃財務的 影響 |
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|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| リスクおよび機会 | 財務的な影響 | リスク管理、対応策、取組み | 短期 | 中期 | 長期 | 短期 | 中期 | 長期 | |||
| 移行リスクと機会 | 政策と法 | リスク | カーボンプライシングの導入・強化およびエネルギー価格上昇により、運営コストが増加するとともに、環境性能格差が資産の競争力および回収期間に影響を及ぼす可能性 | ・光熱費および運営費の増加 ・環境性能の差異による稼働率・賃料水準への影響 ・環境性能が市場評価基準として重視されることによるキャップレートおよび資産価値への圧力 ・投資回収期間の長期化 ・規制強化および市場評価基準の段階的高度化により、影響は中長期的に顕在化する可能性 |
・エネルギー効率化(LED・空調更新・BEMS導入) を計画的に実施し、炭素コスト上昇分を吸収 ・物件取得時にエネルギー性能・設備更新性(更新しやすさ)を確認し、ブラウンディスカウントを回避 ・省エネ改修の費用対効果分析に内部炭素価格(ICP)試算を活用し、投資判断の質を高める |
小 | 中 | 中 | 小 | 中 | 大 |
| リスク | 省エネ法・建築物省エネ基準の高度化による改修などコストの増加 | ・適合改修の義務化や届出増加により、改修コスト・報告コストの増大が見込まれる ・基準未達の既存建物は、資産価値の下落リスク(ブラウンディスカウント)に直面する |
・取得前デューデリジェンスで規制対応コストを織り込んだ投資判断を実施 ・既存物件は、照明・空調など「規制対応しやすい」設備更新を優先し、コンプライアンスリスクを抑制 ・ZEB Ready / Oriented 等の建物性能認証を積極的に取得し、長期的な価値毀損を回避 |
小 | 小 | 小 | 小 | 中 | 大 | ||
| リスク | 欧州投資家の存在により、欧州におけるサステナビリティ関連の法制度・開示要請が、投資判断を通じて間接的な影響を及ぼす可能性がある | ・開示基準に遅れると、投資家の投資対象から除外されるリスク ・開示整備・データ収集のための運営コストの増加 |
・TCFD/TNFD整合の開示高度化を継続し、投資家要求を先取り ・ESG委員会によるESGデータ収集・管理体制の整備、サプライチェーン調査の段階的拡大 ・取得物件のESGパフォーマンス(環境認証・適合度)を評価し、資本市場の信頼を確保 |
小 | 小 | 小 | 小 | 中 | 中 | ||
| テクノロジー | リスク | 環境性能の評価基準(ZEBReady/Oriented 等)の高度化に対する対応遅れにより、資産評価・資本コストに影響が生じるリスク | ・基準未達によるブラウンディスカウント(低性能物件の評価下落) ・改修費の増大 ・認証未取得による投資家(特にESG要件を求める投資家)からの資本アクセス低下リスク ・市場評価基準の段階的高度化により、中長期で影響が顕在化する可能性 |
・取得前デューデリジェンスで環境性能を確認し評価 ・省エネ改修・設備更新の優先順位づけ ・中長期のLCC(ライフサイクルコスト)とGHG削減効果を併せて評価 |
小 | 小 | 小 | 小 | 中 | 中 | |
| リスク | 技術基準の高度化・設備仕様の更新に伴い、設備更新・改修コストが増加するリスク | ・高効率空調・断熱・再エネ対応仕様への適合コスト増 ・改修・更新工事の増加による収支への影響 ・要件未達による魅力度低下・競争力低下リスク(ブラウン化) ・短期(~5年)は、更新タイミング到来設備から順次コスト増が顕在化しうるため、中程度の影響となり得る |
・新規取得時のDDで省エネ性能を確認 ・改修計画に省エネ・再エネ対応の優先順位付けを反映 ・投資判断時にLCC(運営費削減)を評価 |
小 | 小 | 小 | 中 | 中 | 中 | ||
| 機会 | 高効率設備・再エネ対応による稼働安定化と運営コストの低減 | ・高効率設備による光熱費削減 ・エネルギー価格高騰へのコスト上昇抑制 ・環境性能向上による選好性・稼働率改善の可能性 |
・光熱費・GHG削減効果を数値化し中長期回収可能性を評価 ・物件特性に応じて再エネ等の導入(太陽光、空調更新など) ・ホテルオペレーターと連携した効率改善の運用(可能な範囲で) |
小 | 小 | 小 | 小 | 中 | 中 | ||
| 市場と機会 | リスク | 環境性能・ESG評価差異による 資産評価および資本コストへの影響リスク |
・環境性能の低い物件が市場評価においてディスカウントを受け、資産価値が相対的に低下する可能性 ・ESG評価や外部格付けの低下により、資本調達条件の悪化や資本コスト上昇につながる可能性 ・将来的な売却価格への影響 |
・取得時デューデリジェンスにおいて環境性能およびESG要件を確認 ・省エネ改修・環境認証取得に向けた中長期計画の策定 ・TCFD/TNFDに基づく情報開示高度化およびESG評価向上施策の推進 ・ESG目標の進捗を定期的に確認し、必要に応じて改善措置を講じる |
小 | 小 | 中 | 小 | 中 | 大 | |
| リスク | 脱炭素移行対応加速に伴う エネルギー価格および改修関連コスト上昇リスク(コスト圧力) |
・電力・燃料価格の上昇による運営費増加およびNOIの圧迫 ・脱炭素対応に伴う高効率設備・環境配慮型建材等の需給逼迫による改修コスト増加 ・更新・改修タイミングの集中によるキャッシュアウト拡大 |
・高効率設備への更新およびエネルギー使用量削減施策の推進 ・中長期修繕計画に基づく段階的改修の実施 ・再エネ調達手法(PPA等)を含む調達方法の検討 ・複数調達ルートの確保および仕様標準化による価格変動リスクの緩和 |
中 | 中 | 中 | 小 | 中 | 大 | ||
| リスク | 低炭素志向への需要シフトおよびブランド評価変化に伴う稼働率・収益性低下リスク | ・環境配慮への対応が遅れた場合、宿泊需要の選好変化により稼働率・単価が低下する可能性 ・ブランド評価の低下を通じた中長期的な収益性悪化 |
・省エネ性能向上や環境配慮型オペレーションの推進 ・開発・取得時における環境性能基準の設定 ・取組内容の可視化およびステークホルダーとのコミュニケーション強化 ・Scope1–3把握やICP検討等を通じた中長期的管理 |
小 | 小 | 中 | 小 | 中 | 中 | ||
| 機会 | 環境・地域価値を活かした宿泊需要創出および資産価値向上機会 | ・環境配慮型宿泊やグリーンツーリズムへの需要増加による稼働率・ADRの向上 ・気候・地域課題への取組み強化を通じたブランド価値向上 ・ESG評価改善やインパクト投資連携による資本市場評価向上および資本コスト低減 ・物件価値の中長期的向上 |
・省エネ・脱炭素施策の推進および可視化 ・地域資源を活用した宿泊プログラムの開発 ・ESG開示高度化およびインパクト評価の実施 ・地域・投資家との連携強化 |
小 | 小 | 中 | 小 | 中 | 中 | ||
| 物理的リスクと機会 | 急性 | リスク | 台風やゲリラ豪雨などによる浸水・風害被害の発生、稼働停止に伴う収益の減少 | ・浸水・風害による修繕費および設備交換費の増加 ・重要設備浸水を避けるための緊急移設・改修に伴うBCPコストの発生 ・自然災害の激甚化による保険料の上昇、免責拡大による実質的負担増 ・休館・稼働低下による売上減少(被災後の回復期間が長期化) |
・洪水ハザード情報に基づく重要設備の上階移設・防水対策の優先順位付け ・物件ごとの自然災害リスクを織り込んだ事業継続計画の更新・訓練の実施 ・高リスクエリアの長期保有方針の見直しやリスク耐性向上投資の優先配分 ・資産規模を拡大してポートフォリオの分散 ・大型物件サーベイの実施(13物件) |
中 | 中 | 大 | 中 | 中 | 中 |
| リスク | 大規模地震(首都圏直下型、南海トラフ)や火山噴火(富士山、浅間山など)の発生 | ・修繕費 ・稼働低下 ・顧客減少 ・資産価値毀損 |
・ポートフォリオの分散、被害を事前に食い止める必要なデータ収集後、レジリエンシー対応を計画 ・必要な物件の耐震補強 |
大 | 大 | 大 | 大 | 大 | 大 | ||
| 慢性 | リスク | 海面上昇および高潮等の影響による沿岸資産への恒常的浸水リスク | ・海面上昇や高潮の頻発化に伴う浸水リスクの高まりにより、防災・嵩上げ・防水等の追加投資が必要となる可能性 ・保険料の上昇や免責条件の厳格化による実質的負担増 ・資産価値の毀損や長期的な収益性低下 |
・ハザードマップおよび過去浸水履歴の定期的確認 ・沿岸物件における嵩上げ・止水板・防水改修等の優先順位付け ・長期保有方針の見直しおよび取得時の立地リスク評価強化 ・保険条件の定期的見直しおよびリスク分散型ポートフォリオ構築 |
小 | 中 | 大 | 小 | 小 | 中 | |
| リスク | 気温上昇・気象パターン変化に伴う観光資源・季節需要の変動 | ・降雪量減少、猛暑の頻発、景観・自然環境の変化等により、地域の観光資源価値が変動する可能性 ・季節需要の偏在や滞在価値の変化により、稼働率・客単価が変動 ・代替コンテンツ開発や館内付加価値強化に伴う追加投資の発生 |
・気候変動影響を踏まえた地域別需要予測の高度化 ・全天候型アクティビティや館内付加価値の強化 ・高効率空調・断熱改修による暑熱対策の推進 ・地域自治体・観光事業者との連携による観光資源保全・再設計 |
小 | 中 | 大 | 小 | 中 | 中 | ||
| リスク | 気候変動に伴う水資源制約(水ストレス)リスク | ・降水パターン変化や渇水頻度の増加に伴う水調達コストの上昇 ・井水・貯水設備等への追加投資 ・給水制限等による一時的な営業制限やサービス水準低下による売上減少 |
・井水・中水・雨水利用など複数水源の確保 ・節水型設備の導入および使用量モニタリング ・ピーク時間帯分散等の運用改善 ・地域水資源管理との連携およびBCP水確保体制の整備 |
小 | 中 | 大 | 小 | 小 | 中 | ||
| 機会 | レジリエンス・適応投資を通じた資産価値安定・運営効率向上 | ・極端気象・気温上昇・水制約による損失や運営負荷の抑制 ・災害時の事業継続性評価向上による資産価値維持 ・中長期的なキャッシュフロー安定化 ・保険条件・資本市場評価の改善可能性 |
・取得・改修時に耐水・耐風・断熱・設備高効率性を評価指標に組み込み、投資判断に反映 ・ハザード情報・気候シナリオを踏まえた長期修繕計画の高度化 ・高効率空調・給湯・断熱改修・節水設備導入を計画的に実施 ・水利用モニタリング・複数水源確保による運営安定性強化 ・レジリエンス向上施策を投資家・保険会社へ開示し評価向上を図る |
小 | 中 | 中 | 小 | 中 | 中 | ||
| 機会 | 気候変動下における自然資本・立地価値の再評価を取り込む事業機会 | ・気候変動により相対的に価値が高まる自然環境・立地を活かした差別化 ・長期滞在型・高付加価値型需要の獲得 ・ブランド価値向上による単価・収益性向上 ・中長期的な資産価値向上 |
・気候変動による地域環境・景観の変化を踏まえた立地評価の実施 ・自然資本(森林・水・生態系)への依存度・持続性の定期評価 ・自然地形・植生・水系を活かした設計・商品開発の推進 ・地域自治体・事業者・NPOと連携した自然保全・再生プロジェクトへの参画 ・環境価値を可視化し、顧客・投資家へ適切に情報発信 |
小 | 中 | 中 | 小 | 中 | 中 | ||
- 本分析では、以下の気候シナリオを参照しています。
1.5℃シナリオ
(移行リスク)IEA NZE2050シナリオ
(物理的リスク)IPCC SSP1-2.6シナリオ
4℃シナリオ
(移行リスク)IEA STEPSシナリオ
(物理的リスク)IPCC SSP5-8.5シナリオ
※IEA:国際エネルギー機関
※IPCC:気候変動に関する政府間パネル - 各シナリオにおける財務影響は、短期(~2030年頃)、中期(2030年代)、長期(2050年以降)の時間軸で評価し、影響の大きさを相対的な重要度(小・中・大)で示しています。
ホテル市場・不動産業界におけるリスクとその対応・管理
① 移行リスク:政策・市場・評判の変化による影響と対応
脱炭素への移行に伴い、本投資法人の保有資産に対して、建物のエネルギー効率規制やGHG排出量の開示要求など、政策・法規制の高度化が見込まれます。これらへの対応が遅れた場合、投資対象としての魅力低下や、資本調達コストの上昇、物件取得競争力の低下につながる可能性があります。
また、観光・宿泊市場においても、宿泊客や取引先による気候変動対応への関心が高まっており、環境配慮が不十分な施設は選択されにくくなるリスクがあります。
本資産運用会社は、こうした移行リスクに対し、運用段階におけるGHG削減、エネルギー効率の改善、設備更新時の省エネ化を進めるとともに、物件取得時には環境性能・認証・更新余地を確認し、ブラウンディスカウントや座礁資産化の回避に取組んでいます。
さらに、サプライチェーン排出量(Scope3)の把握に向け、主要な協働事業者との連携を進めています。
② 物理リスク:気候災害の激甚化による資産・収益への影響と対応
気候変動に伴い、台風・線状降水帯・高潮・豪雨などの急性リスク、ならびに海面上昇や高温化などの慢性リスクの高まりにより、本投資法人の保有資産の営業継続性や収益性への影響が想定されます。
具体的には、建物被災による修繕費の増加、保険料の上昇、休館による稼働率低下、交通遮断による宿泊需要の減少などが挙げられます。
本資産運用会社は、これらの物理リスクに対し、シナリオ分析の結果を踏まえ、地域ごとの災害リスク評価および既存物件のレジリエンス向上の優先順位付けを行い、計画的に対策を進めています。
特に宿泊施設は立地特性による影響が大きいため、物件特性に応じた防災・減災対策、代替手段の確保、早期回復体制の構築を段階的に進めています。
